幻覚ギター

みた映画、きいた音楽、よんだ本。

佐藤卓己「言論統制」

正月に買ったままほってた本…。その時点では、まさかこれを転職先に通う電車の中で読むことになるとは夢にも思ってなかった。先のことはわからないものだ。

戦時下に行われた言論統制の中心人物とされた軍人「鈴木庫三」が何者であったのかを、残された日記などから明らかにしようとする本。

実際には言論統制をめぐっての海軍・陸軍の対立を使いながらうまい汁をすった出版関係者や、積極的に戦争協力した文筆家たちが自らの罪をごまかすために「鈴木庫三」を利用したのであって、この軍人の本当の姿は違うものであった、という結論だ。

著者が中立の立場で書いているかどうかはわからない。ただ日記をはじめとする証拠をよく調べてあって、明らかに間違った記憶を元にした「鈴木庫三」批判よりは説得力がある。同じように証拠を元にした「鈴木庫三」批判も出揃えば事実ははっきりするかもしれない。

とにかくいろいろと重たく考えさせられる本だ。

この「鈴木庫三」という人物があまりに周りにいくらでもいそうな人という気がした。正義感が強くこつこつ努力するタイプ。そういう人たちが組織の枠組みの中に、自分の理想を重ね合わせて精一杯がんばってしまう。その一方で組織をうまく利用して最後は自分が一番得をするように行動する人もいる。そういった人たちが集まって組織は制御不可能な正体不明のものになっていく。中国で暴れている人たちにしても、それに反発する運動みたいなのが日本でもりあがったとしても、その構図は同じなんだろうと思う。

国とか民族とか宗教とか、組織とか、そういうものに関係なく人間が生きていくというのは夢のまた夢だろうか。

You may say I'm a dreamer....

これで次はいよいよ町田康の「告白」だ!