幻覚ギター

みた映画、きいた音楽、よんだ本。

平野啓一郎「ドーン」

ドーン (100周年書き下ろし)「決壊」よりは文がシンプルになって、よく言えばこなれた印象になった。 内容としては一見サイバーパンクっぽくもあるが、「決壊」での感想にも書いたように著者は今の世の中で起こりつつあることに興味があるのか、より人間に焦点をあてた内容で興味深いものだった。 ネットと監視カメラと顔認識の融合である「散影」(個人を検索して世界中にある監視カメラで捉えられた画像がみれたりする)、それを避けるための「可塑整形」(いくつかの顔を使い分けられる)、ソーシャルネットをはじめとする複数のコミュニティや人間関係の中に限定した個人の「ディヴ」といった小道具を駆使して、何をもって自分が自分たるのか、という命題に切り込んでいる。 少し前に、ある日突然google buzz経由で意図せずにユーザのある人間関係が別の関係者に公開されてしまう、という問題があった。 その時、「もしgooglegmailの内容や検索履歴などすべての情報を公開する」なんてことを言い出したらどういうことが起こるのだろう?と考えたものだった。お互いに隠し事ができない、という人間関係はどういうことをもたらすのだろう?むしろ互いにどんなことでも受け入れられるような寛容な社会になったりはしないだろうか?なんて青いことも考えてみたりしたものだった。 他にもアメリカの帝国主義的なものへの批判も読めるが、保守系の大統領候補であるキッチンズも自分たちのしていることが正しいと信じて明日人に語る場面もあり、ものごとがそう単純ではないことも描かれている。