泣ける本とか映画とかあるが、それでも泣いた後にそれなりに爽快感がある。本書は違う。本当に悲しすぎた。
何らかの大惨事(人間の手によるものと示唆されている)によって死の世界となった地上を彷徨う父と子。
精緻な描写が延々と続き、それに比べてとても少ない父子の会話があるのだが、そこには引用符がついていない。これがこの二人が圧倒的な絶望の中に飲み込まれているということを印象付けている。
希望や生命の存在しない廃墟、人であることをやめた他の生存者たちがつくりだす凄惨な光景。こんな中で互いを思いやって善い人であろうとする父と子の会話に激しく心揺さぶられるし、こんな状況にあってもなお人として生きる意味とは何なのだろうと答のない問いが自分の中で繰り返された。
あとで知ったが、著者は「ノーカントリー」の原作も書いていた。こういう作風なのだろうけど、もう少しマイルドな別の作品も読んでみたいとは思った。