ただストーリーを消費するのではなく、読む行為そのものも楽しめた本だった。
上巻で三島由紀夫(「太陽と鉄」とか)へのオマージュがストレートなところは少し意外だったが、心理描写が深くて読み応えがある。
一方で、ストーリーも今の日本の状況(特に警察やメディア、それに反応する世間の動き)をリアルに描きながら、それらの問題点にもふれている。ネットが普及した今、個人がいわゆる「世間」と戦っていくことは難しい。事件関係者の苦しむ様子はそのことを浮かび上がらせている。
以前、文学はもはやこの世の中に起こっていることに追いつけなくなっているのではないか、というようなことを書いた記憶があるのだが、著者はそういった部分へも挑戦しているように感じた。
以下ネタバレあり。
読む行為は楽しいとはいうものの、絶望的なラストは衝撃だった。
崇は大いなる知性をもちながら、あるいはそれゆえになのか、自身に起こったことを結局消化しきれなかったのだろうか。