幻覚ギター

みた映画、きいた音楽、よんだ本。

ノマドランド

本作がアカデミー作品賞を取ったことは知っていたし、ここ数年は社会問題とリンクしたものが作品賞に選ばれているという背景からも、家を持たずその日暮らしをする人々を扱った社会派作品という先入観があった。

実際、最初に観た時はこういった問題に対して個人として何ができるのか、ということばかりが頭に浮かんでしまって、評価の難しい作品だという感想を持った。

 以下、ネタバレあり。

 

ただ、もう一度、それもラストの30分くらいをじっくりと観た後の感想は別のものになった。

ファーンが結婚式で読んだという詩における、無常観と詩の永遠性、そして映像では悠久の自然と刹那的な人生を生きるノマドたち、その対比が印象的で、まさに自分の死生観を問われている気がした。

今の経済を批判し、ノマドを助ける活動をしているボブの言葉。

この生き方が好きなのは最後の「さよなら」がないんだ。
何百人と出会ったが一度も「さよなら」とは(言わず)
いつも「またどこかで」(と言うだけ)
実際そうなる 1ヶ月後か数年後か分からんが また会える

ファーンにも帰る場所はあるのだが、ノマドを選択している。この映画はノマドを一つの生き方として描いているのだった。

音楽と美しい映像もとても良かった。

ラストは、ファーンがかつて過ごした社宅から見える遥か向こうの山まで続く砂漠。

その砂漠に向かって歩いていくファーン。このまま砂漠に消えてしまうような気がしたところから、山に向かって走るファーンの車へ。

それまでは亡き夫ボーの思い出を引きづりながら彷徨っていたファーンが、自らの意思でノマドを選んだ瞬間だったのか、と解釈した。

 

それにしてもこの映画を撮った監督にエターナルズを撮らせるディズニー、恐るべし(失敗だったと思うのだが)。