幻覚ギター

みた映画、きいた音楽、よんだ本。

「三体Ⅲ 死神永生」

前作のラストがあまりに素晴らしくて、続編なんて成立するのか?でもさらにすごいらしい…と1年近く待ちわびてとうとう完結作を読んでしまった。

以下、ネタバレあり。

 

前作で羅輯が繰り出した一手によって成立した抑止紀元。羅輯から程心に執剣者の地位が継承された直後に、三体人が仕掛け、いきなり始まる10分間のカウントダウン。選べるのは地球が三体人に支配されるか、両者とも滅びるかだけ。その選択を一人でしなければならない程心の責任の重さを考えると、オバマ元大統領が本作品にハマった理由として述べたことが少しだけど理解できる。

そして、地球の命運も尽きたかというところで前作で地球からの逃亡を選択した艦隊が重要な役割を果たし、とうとう人類は次元を自在に操る存在の痕跡に遭遇する…。ここからのスケールの広がり方が指数関数的でとにかく凄かった。半ば無理矢理で自分も含めてかなりの読者を置いてけぼりにしているのだが、それでも筆力で最後まで引っ張ったという感じ。

天明の再登場、「雲天明があなたに会いたいそうです」と三体人(が操る智子)から伝えられる場面は一番気持ちが盛り上がったところか。

天明のおとぎ話の解読という、また無理矢理な展開に強引に引き込まれて、バンカー計画によって人類に安息がもたらされたのかと思ったのも束の間、ここからがまさに指数関数的にどんどん話がでかくなっていき、ひたすら著者の筆力にぶん回されていく感覚に。

ただ、ここからの展開はそれまでと比べるとあまりに粒度が荒くなってしまって、ちょっと不満だ。状況を追うので精一杯だし、なぜ素直に程心と雲天明の物語にしなかったのか(そうするにはもっと前段で二人の物語を描いておく必要はあるにしても)とも思う。そもそもラストで男女というペアを出してくる必要はなかったのでは?

 

それでもこれだけスケールアップした物語を何とか着地させただけでもすごいし、それを全5冊にまとめることがそもそも無理で、20-30冊くらいでやってくれて、そのラストがこれだったら、もう1ヶ月くらいは抜け殻になってしまうほど感動したのではないか。映像化されるとのことなので、単発映画ではなくTVシリーズなら10シーズンくらいかけてじっくりやってほしい。

 

ということで、3部作を総括すると、一番好きなのは断然Ⅱだ。Ⅰも(原著は順番が違うとのことだが)文化大革命から始まって、宇宙人との遭遇・戦いへと展開するワクワク感が好きだけど、Ⅱの面壁プロジェクトと水滴戦を経ての、羅輯の乾坤一擲の一手までのジェットコースターのような展開は本当に面白かった。

Ⅲは抑止紀元の終わりから送信紀元、雲天明の再登場まではⅡと同じテンションで読めたが、その後でいろいろとバランスが崩れてしまった気がするのが、ⅠやⅡに及ばないと思ってしまう理由かな。

それにしても、古今東西のいろいろなSFやアニメの要素がぎっしりと詰め込まれていて(ロボットの智子の描写はちょっとアニメっぽすぎる気はするが)、そういうところを探して読むのもおもしろそう。

 

追記:
そう、この作品は最後に一気に全てを飛び越えてしまうけど、その分残された側のストーリーがあるはずで、おとぎ話の中の傘が結局何だったのかという謎が残されていることを考えると間を埋める話が今後書かれるのでは?と期待してる。