幻覚ギター

みた映画、きいた音楽、よんだ本。

エルヴェ・ル・テリエ「異常(アノマリー)」

話がどう転ぶのかがわからず、先が気になってほぼ一気に読んだ。

以下、  (かなり詳細な)ネタバレあり

 

まずよかった点はその凝った構成。

全く異なるバックグラウンドや現在の生活を持つ人々の話がバラバラに語られ、最初は普通の小説的な展開。

それらが一つのフライトに関係しているという暗示が明確化され、乱気流に巻き込まれた飛行機と乗客があたかもコピーされてオリジナルの3ヶ月後に突如現れた、という衝撃的な出来事が明らかになる。ここから一気にハードなSFになることを期待したが、そこは裏切られる。

後半は、このような出来事に対する人間(当事者と関係者)や世界がそれぞれどうなるのかということを、SFらしくなく登場人物の心情も交えて丁寧に描いている。よくある死んだ人が現れるのと逆に、もう一人の自分(ダブル)が現れるという戸惑いや苦悩、その逆の反応も、それぞれ読ませる内容になっていた。

さらにはそのフライトの乗客の一人がこの小説を書いている、という構成、そしてラストで起こったことで、これは明確には描かれていないのだが、この現象の意味すること(SF的な面で)に考えを巡らせる、という、凝った構成だった。

 

ここで述べられるシミュレーション仮説で、真っ先に思い浮かんだのはリング・らせん・ループ三部作(この仮説が提唱されたのは「ループ」よりも後みたいだけど)。自分の座右の銘は「色即是空」なので(笑)、この現実と虚構の狭間的な話はもともと大好きだ。ループみたいにそこを描き切ったものには感心した一方で、やはり書いてしまうと、そういうものか、で終わってしまうところがあり(要するにオチがわかった時点で結構どうでもよくなる)、本作のように暗示する程度が良いのかもしれない。

連続ドラマにできそうな内容なので、おそらく映像化されるだろう。