幻覚ギター

みた映画、きいた音楽、よんだ本。

「ザ・ロード」

https://m.media-amazon.com/images/I/81lxwHp6SeL._SY522_.jpg読むのが辛すぎた。二度と読めない。

泣ける本とか映画とかあるが、それでも泣いた後にそれなりに爽快感がある。本書は違う。本当に悲しすぎた。

何らかの大惨事(人間の手によるものと示唆されている)によって死の世界となった地上を彷徨う父と子。

精緻な描写が延々と続き、それに比べてとても少ない父子の会話があるのだが、そこには引用符がついていない。これがこの二人が圧倒的な絶望の中に飲み込まれているということを印象付けている。

希望や生命の存在しない廃墟、人であることをやめた他の生存者たちがつくりだす凄惨な光景。こんな中で互いを思いやって善い人であろうとする父と子の会話に激しく心揺さぶられるし、こんな状況にあってもなお人として生きる意味とは何なのだろうと答のない問いが自分の中で繰り返された。

あとで知ったが、著者は「ノーカントリー」の原作も書いていた。こういう作風なのだろうけど、もう少しマイルドな別の作品も読んでみたいとは思った。

ジョン・ル・カレ「スパイたちの遺産」

https://m.media-amazon.com/images/I/71bCn7Mmt2L._SY522_.jpgスマイリー3部作の続編、ただし38年後に書かれたもので作中の時間も同じくらいの時が過ぎている。

訳者あとがきを読んでから、しまった!と思ったのが本作は当然スマイリー3部作の続編なのだが、それだけでなく「寒い国から帰ってきたスパイ」の後日譚となっていたのだった。

映画は観たけど、そこまで細かいところは覚えていなかったので、先に原作を読んでからこちらを読むべきだった…。

以下、ネタバレあり。

 

読みにくさは相変わらずだが、最近書かれたものでもあり、これまで読んだ中では登場人物それぞれがわかりやすかった気がする。

変わらないピーター・ギラムの見境のなさ(笑)は良い。

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

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前作はアニメーションの凄さが目立っていたが今作はより複雑なストーリーになっている。もちろんアニメーションは本作でも凄いけど、速すぎて情報量も多すぎておっさんがついていくのは大変だった(笑)

前作以上に多くのマルチバーススパイダーマンが出てくるし、スパイダーソサエティはとても楽しげ。

以下、ネタバレ?あり

 

ようやく盛り上がるというところで次回へ続く、となってしまう!

Dream Scenario

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行きすぎたキャンセル・カルチャーを揶揄しているとも受け取れるが、本作の主人公の場合完全にとばっちりでもあり、むしろコメディなのだろうと思えた。

そのコメディを成立させてるのは、やはりニコラス・ケイジ!夢に出てくる不気味な表情と、理不尽な状況に怒りまくったり苦悩したり、と本当に色々な表情を作っていて、楽しく見れた。

以下、ネタバレあり。

 

ラストの展開は蛇足な気もしたが、結局キャンセル・カルチャーも商業主義の文脈で捉えられるし(顧客にうけない人を追放する)、そちらを揶揄したものなのかと思えた。

 

バービー

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往路の機内で見た映画があまりに後味悪すぎて、帰りは何か軽くて楽しい映画を…と思って選んだのだが、思った以上にエモかった(笑)

一番疲れている帰りの機内でみるとだいたい感情が大きく反応してしまうので、そこは差し引かなといけないが、バービーに思い入れのある人だったらもっと感情揺さぶられるものだったのではないか。

いきなり冒頭が2001年宇宙の旅へのオマージュで始まったり、色々と小ネタがありそうでそれらを探すのも楽しそう。

Margot Robbie演じるバービーは、ハーレイ・クイン紙一重という感じで、少し狂気が混じっていて、それもバービーらしいのかも。

アグリー・ベティのAmerica Ferreraがオスカー助演女優賞にノミネートされていたのは嬉しかった。

 

 

 

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

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イギリス出張の往路機内でみた。とにかく鬱な展開で、ロバート・デ・ニーロとディカプリオの見事なまでのクソ野郎なりきり演技を堪能するしかない。

以下、ネタバレあり。

 

人間が邪悪になるのには単なる私欲ということだけでない、その人なりの大義があって、この手の映画ではそれを描くパターンが多いと思うのだが、本作に出てくる人たちはそれがなく、ただ私利私欲の追求のために簡単に人を殺す。アメリカ先住民を人とも思わない価値観だけでなく、同じ白人も平気で使い捨てる。

主人公(ディカプリオ)は妻の薬に毒を入れることに対して葛藤もするのだが、映画でみる限り、とても弱く都合の良いもので、あくまで自己憐憫・自己中心的なものにみえた。

スコセッシが描きたかったのは、人間が本来持っている悪さなのか、何なのか、残念ながら納得できるものを見つけられなかったので、原作を読んでみようと思う。

ジョン・ル・カレ「スマイリーと仲間たち」

https://m.media-amazon.com/images/I/51Achy9ma5L.jpgスマイリー3部作(海外ではカーラ・トリロジーとのこと)の完結編。

読みにくさ(細かすぎる、深すぎる、まわりくどい描写など)は相変わらずだけど展開としてはよりハラハラドキドキさせる仕掛けも入って、少しだけどエンターテインメント色が濃くなってる。

筆者がコーンウォルにこだわりがあるようで、仕事で出張する場所に近く、馴染みのある地名が出てくるのも楽しかった(出張で行くのでそのものズバリの場所には行けてないけど、いつかは行きたい)。

基本シリアスな話だけど、ところどころ笑ってしまう場所があるのも良い。ここは自分も心の中で突っ込んだところ。

グリゴーリエフがカーラの話をきいた翌日に、もう愛人にそれをしゃべっていると知った衝撃から立ちなおれぬトビー・エスタヘイスにとって、その中断はありがたかった。

 

以下、ネタバレあり。

当然、完結編と位置付けられているので宿敵カーラとの決着も付く。全体の粘着質的な描写に比べてそこはあまりにあっさりと描かれていて、それこそが趣味が良いということも理解しつつも、ハリウッド映画的にもう少しその先、せめてカーラがなんと言ったのかということも読みたかった。