幻覚ギター

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藤本隆宏「現場主義の競争戦略」

2010年から2013年にかけての著者の講演録をもとにした「ものづくりの現場の視点から見た日本産業論」。

リーマンショック後の不況・円高東日本大震災、テレビ産業不振といったその時々の状況から議論されていた「日本製造業への悲観論」に対する著者の主張は以下のように地に足のついたもので、参考になった。

 

日本経済の閉塞感、家電など一部産業の競争力喪失から、「もう日本の製造業は全体が衰えた」と短絡的に結論づける気分的な「製造業衰退論」、さらには「製造業不要論」まで流布しました。

しかしそれらが、貿易論や産業競争力論の原理を無視し、産業現場の実態もちゃんと見ていない、論理的根拠の怪しげなものであることは既にお話しした通りです。

他方では、「日本人は生得的にものづくりが得意なのだから心配ない」「日本は擦り合わせ型製品さえ作っていれば負けない」というような、これまた情緒的な「ものづくり礼賛論」も多く聞かれます。これもまた、弛まぬ能力構築の努力なしには現場の存続は難しい、というグローバル競争の厳しい現実を看過しており、いささか楽観的に過ぎます。実際に競争をしている現場で、このような呑気な話を耳にすることはまずありません。

「衰退論」は「礼賛論」の甘さを批判し、「礼賛論」は「衰退論」の敗北主義を批判する。このような表層的な悲観論と表層論な楽観論が外野で論争をしていても、日本の産業の将来への建設的な解は見つかりません。